卸販売・サプライヤー向け

卸価格と掛け率の決め方 — 利益が残る価格設計の手順【計算例つき】

読了目安 約8分
「PRICING FORMULA(価格の計算式)」と書かれた書類や経理帳票を机に広げ、ペンで卸価格を検討する手元

写真: Leeloo The First(Pexels)

卸価格は、小売価格に掛け率をかける逆算と、原価に必要な利益を積み上げる積み上げの2つの考え方で設計します。どちらの場合も、卸価格から原価・送料・販売にかかる費用を引いても利益が残るかを試算し、値引き交渉に応じる余地まで含めて決めることが、利益の残る価格設計の要点です。この記事では、計算例を交えて手順を解説します。

卸価格をいくらにするかは、卸販売の利益を左右する最も重要な設計です。小売価格の何割、原価の何倍といった目安はありますが、目安に合わせただけでは、送料や手数料を引いたあとに利益が残らないことがあります。ここでは、掛け率の基本をおさらいしたうえで、原価から利益を積み上げる考え方と、値引き交渉に備えた価格設計までを、計算例に沿って掘り下げます。卸販売そのものの始め方は卸販売の始め方で全体像を解説しているので、あわせてご覧ください。

掛け率とは — 上代・下代の関係をおさらいする

掛け率とは、小売価格に対する卸価格の割合です。卸取引では、小売価格を「上代(じょうだい)」、卸価格を「下代(げだい)」と呼びます。掛け率6掛けなら、上代(小売価格)の60%が下代(卸価格)になります。

用語 意味
上代(じょうだい) 小売店が消費者に売る価格。小売価格
下代(げだい) 小売店に卸す価格。卸価格
掛け率 上代に対する下代の割合。5掛け=50%

掛け率が小さいほど卸価格は安くなり、小売店は仕入れやすくなりますが、売り手の手元に残る利益は薄くなります。逆に掛け率を大きくすると利益は増えますが、小売店が仕入れにくくなります。この綱引きの中で、双方が続けられる水準を探るのが価格設計です。

掛け率の相場は業界によって幅があります。アパレルや雑貨では5〜7掛け、原価率の低い化粧品やアクセサリーでは4掛け前後になることもあります。ただし相場は出発点にすぎません。相場どおりに設定しても、自社の原価構造では利益が残らないこともあるため、次に説明する試算が欠かせません。

逆算と積み上げ — 2つの決め方を使い分ける

卸価格の決め方には、大きく2つのアプローチがあります。売り場の小売価格から逆算する方法と、自社の原価から積み上げる方法です。

決め方 出発点 向いているケース
逆算(小売価格から) 想定する小売価格 売り場の相場価格が決まっている商材
積み上げ(原価から) 原価と必要な利益 オリジナル商品で価格を自由に決められる場合

逆算は、その商品がいくらで売られるべきかが市場である程度決まっている場合に使います。想定小売価格に掛け率をかけて卸価格を求め、その卸価格で利益が残るかを確認します。

積み上げは、原価に必要な費用と目標利益を足して卸価格を求め、その卸価格が上代として成り立つかを確認します。オリジナル商品で価格の自由度が高いときに向いています。

実務では、この2つを行き来しながら着地点を決めます。積み上げで求めた卸価格が、逆算で想定した売り場価格に対して高すぎないか。逆算で求めた卸価格で、積み上げた利益が確保できるか。両方向から挟み込むことで、無理のない価格に近づきます。

原価構造を分解する — 卸価格に含めるべき費用

積み上げで卸価格を決めるには、まず原価に何が含まれているかを分解します。「原価=仕入れ値・製造費」だけで考えると、あとから費用が漏れて利益が消えます。卸価格でカバーすべき費用を洗い出します。

費用の種類 内容
製造原価・仕入原価 材料費・製造委託費、または仕入れ値
変動費 梱包資材、決済手数料など数量に比例する費用
送料 出荷ごとにかかる配送費(負担する場合)
販売にかかる費用 販路の利用料や手数料など
目標利益 事業を続けるために確保したい利益

このうち送料と販売にかかる費用は、卸価格の設定を誤らせやすい部分です。送料を売り手が負担する条件にしている場合、卸価格に送料分を織り込まないと、1件売れるたびに利益が目減りします。販路の利用料や手数料も同様で、卸価格から差し引かれる前提で利益を計算します。

固定費(家賃・人件費など数量に比例しない費用)は、1商品あたりに配賦して原価に乗せるか、目標利益の中で回収するかを決めておきます。小規模なうちは厳密な配賦より、目標利益を厚めに取って固定費をまかなう考え方が現実的です。

計算例で見る — 利益が残るかを試算する

具体的な数字で試算します。原価500円の商品を、小売価格1,000円で売られることを想定し、6掛け(卸価格600円)で卸すケースを考えます。

項目 金額
卸価格(6掛け・下代) 600円
製造原価・仕入原価 −500円
梱包・変動費 −30円
販売にかかる費用(手数料等) −60円
送料(売り手負担の場合) −50円
手元に残る利益 −40円

なお、表中の「販売にかかる費用」は説明用の仮の数字で、特定サービスの手数料率ではありません。この例では、6掛けで卸すと1個あたり40円の赤字になります。原価率が高い商品を相場どおりの6掛けで卸すと、送料や手数料を引いたあとに利益が残らない、という典型です。

対策は3つあります。1つ目は、送料を一定金額以上の注文で売り手負担にする、あるいは買い手負担にして卸価格から送料を外すこと。2つ目は、小売価格そのものを1,200円に引き上げ、6掛けでも卸価格を720円に上げること。3つ目は、原価そのものを下げることです。

たとえば送料を買い手負担にし、小売価格を1,200円に見直すと、卸価格は720円になり、原価500円・変動費30円・手数料72円を引いても118円の利益が残ります。数字を置いて試算すると、どこを動かせば利益が残るかが見えてきます。目安の掛け率に合わせるのではなく、必ず自社の数字で試算することが、利益の残る価格設計の核心です。

値引き交渉と数量割引に備える

卸取引では、小売店から「まとまった数を仕入れるので単価を下げてほしい」という交渉が入ることがあります。このときに、最初の卸価格を原価ぎりぎりで設定していると、値引きに応じた瞬間に赤字になります。

備えの基本は、最初の卸価格に値引きの余地をあらかじめ含めておくことです。そのうえで、数量に応じた価格の段階を先に決めておくと、交渉のたびに利益を削らずにすみます。

注文数量 掛け率の例 考え方
少量(最低ロット) 6.5〜7掛け 手間がかかる分、単価を高めに
中量 6掛け 標準の卸価格
大量 5.5掛け前後 数量メリットを一部還元

段階を決めておくと、値引き交渉が「その場の駆け引き」ではなく「あらかじめ用意した条件の提示」になります。売り手にとっては利益を守りやすく、買い手にとっても基準が明確で納得しやすくなります。

なお、取引先ごとにばらばらの個別値引きを重ねると、価格が取引先間で伝わったときに不公平感が生まれ、あとの取引をやりにくくします。値引きは、数量や取引条件に応じた明確な基準にもとづいて行うのが安全です。

決めた卸価格で売り先を広げる

卸価格と掛け率が固まったら、その価格で小売店に商品を見てもらう販路を用意します。決めた卸価格をそのまま設定して掲載できる場を選ぶと、価格設計の手間が販路に引き継がれます。

オンラインの卸取引サービスは、決めた卸価格を自社で設定して、常時、全国の小売店に掲載できる販路です。たとえば orosy が 2026 年秋の開始を想定している新しい卸売サービスは、卸価格・最低注文数量・入数・送料の条件をサプライヤー自身が設定でき、登録・掲載は0円で、費用は商品が売れたときの手数料だけという仕組みです。設定した卸価格に orosy が上乗せすることもありません。現在は先行登録を無料で受け付けています。

販路の選び方そのものは卸の販路の選び方で、掛け売りの入金・回収の実務は掛け売りの未回収リスクを抑えるにはで解説しています。

よくある質問

掛け率とは何ですか。

掛け率とは、小売価格(上代)に対する卸価格(下代)の割合です。掛け率6掛け(60%)なら、小売価格1,000円の商品を卸価格600円で販売します。数字が小さいほど卸価格が安くなり、売り手の利益は薄くなります。

卸価格は小売価格のどれくらいが目安ですか。

業界慣行では小売価格の50〜70%程度(5〜7掛け)が一つの目安とされますが、化粧品やアクセサリーのように原価率が低い商材では50%を下回ることもあります。目安に合わせるより、原価に必要な利益を積み上げて利益が残るかを試算して決めます。

卸価格は原価の何倍にすればよいですか。

商材によりますが、原価の2〜3倍程度を卸価格にする考え方が一つの目安です。ただし倍率だけで決めると、送料や販売手数料を引いたあとに利益が残らないことがあります。原価に固定費・変動費・目標利益を積み上げて卸価格を求め、それが小売価格として成り立つかを確認する手順が確実です。

小売店から値引きを求められたらどうすればよいですか。

最初の卸価格に、値引きに応じられる幅をあらかじめ含めておくのが基本です。原価ぎりぎりで設定すると、まとめ買いの値引き要望に応じた瞬間に赤字になります。数量に応じた価格の段階をあらかじめ決めておくと、交渉のたびに利益を削らずにすみます。

卸価格は取引先ごとに変えてよいですか。

変えること自体は可能ですが、価格が取引先間で伝わったときに不公平感が生まれるため、数量や取引条件に応じた明確な基準を設けるのが安全です。基準のない個別値引きは、あとの取引をやりにくくします。

一度決めた卸価格は変更できますか。

変更はできますが、値上げは取引先の理解を得にくく、値下げは一度下げると戻しにくいため、慎重に設計します。だからこそ最初の価格設定で、原価の変動や値引き交渉の余地まで織り込んでおくことが大切です。


卸価格は、小売価格からの逆算と原価からの積み上げを行き来し、送料や手数料まで含めて利益が残るかを試算し、値引きの余地まで織り込んで決めます。目安の掛け率に合わせるのではなく、自社の数字で試算することが、利益の残る価格設計の要点です。卸販売の全体像は卸販売の始め方、販路の選び方は卸の販路の選び方、掛け売りの入金・回収は掛け売りの未回収リスクを抑えるにはで解説しています。決めた卸価格で販路を広げる方法は、サプライヤー向けページもあわせてご覧ください。

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